バーチャル工場見学、完成。そして見えた「本当の課題」― 手段を目的にしないDXの話

こんにちは、Onsite Solution の村上です。

以前書いた バーチャル工場見学は自社で作れる の続編です。前回は「外注せず、360°カメラとオープンソースで内製できるはず」という調査と構想の話でした。

あれから——カメラが届き、現場を撮影し、バーチャル工場見学は本当に完成しました。

ところが、話はそこで終わりませんでした。完成したものを社内に見せたとき、想定していなかった本質的な問いが生まれたのです。今日はその「完成報告」と「見えてきた本当の課題」の両方を書きます。

まず完成報告:本当に内製できた

カメラ到着、そして撮影へ

注文していた360°カメラ(Insta360 X4)が到着。まず試し撮りをして、書き出した全天球画像(equirectangular形式)が前回構築したOSSビューア(Photo Sphere Viewer)でそのまま表示できることを実機確認しました。ここが繋がれば、あとは撮って並べるだけです。

撮影のコツも、やってみていくつか掴みました。

  • 高さと水平を全地点で統一する(一脚で目線の高さに固定・水準器で毎回確認)
  • カメラの正面を「次のシーンへ進む方向」に揃えて撮る——あとで矢印の向きや現在地レーダーの向きを合わせる作業が劇的に楽になる
  • 撮影者はカメラの真下(自動で消える位置)か、柱の陰に隠れる
  • 窓際の白飛びはHDR撮影で回避

十数シーンの「歩ける工場」ができた

撮影した十数枚の360°写真をつないで、こんなツアーに仕上がりました。

  • 床の矢印をクリックして歩いて回る、没入型の移動
  • 構内図(フロアマップ)との連動——エリアを移動すると図面が自動で切り替わり、今どこにいて、どちらを向いているかがレーダーで分かる
  • サムネイル一覧からのジャンプ、?start=シーンID での特定地点への直リンクにも対応

そして前回宣言したとおり、出来上がったのはHTML・JS・画像だけの完全静的サイト。既存のサーバーに置くだけで動き、月額費用の増加はゼロです。

※冒頭の画面イメージは、実際の工場ではなくAI生成のサンプル工場写真で再現したデモ画面です(構成・機能は実物と同じ:ヘッダー・床の移動矢印・構内図と現在地レーダー・説明ポップアップ)。

内製ならではの副産物:「配置エディタ」も自作

作っていて一番面倒だったのは、各シーンの「図面上の位置」と「向き」を数値で合わせる作業でした。そこで、図面をクリックして位置を指定し、矢印をドラッグして向きを決めると、設定データ(JSON)を書き出してくれる管理用エディタを自作しました。

シーン配置エディタのデモ画面:左にシーン一覧、中央の構内図でピンの位置と視野の向きを直感的に編集し、右のパネルで接続シーンやホットスポットを設定してJSON書き出し

左にシーン一覧、中央の構内図でピンをドラッグして配置、右のパネルで「どのシーンと矢印でつなぐか」「説明ポップアップをどこに置くか」を設定して、最後にJSONを書き出すだけ(※この画面もサンプルデータによるデモです)。

これで撮り直しやシーン追加があっても、数分で座標合わせが終わります。外注していたら「修正のたびに依頼・待ち・費用」になっていたはずの部分が、社内で数分。内製の価値は、作るときより「直すとき」に出る——これは今回の大きな学びでした。

なお、今回作ったバーチャル工場見学のシステム一式(ツアー本体+この配置エディタ)は、後ほど整理して GitHubで公開する予定 です。お楽しみに。

完成品を見せたら、想定外の問いが返ってきた

さて、ここからが本題です。完成したツアーを社内のメンバーに見せて意見を聞いたところ、技術的な感想よりも先に、こんな声が返ってきました。

「すごいのは分かった。でも——そもそも工場を全部オンラインで見せる必要って、あるんだっけ?」

続けて出てきた意見は、どれも的を射たものでした。

  • 中小製造業の工場は、常に“見せられる状態”に整っているとは限らない。整理されていない部分まで見えてしまうと、問い合わせ前の新規のお客様にマイナスの第一印象を与え、かえって接点を失うのではないか
  • 見せるべきは「キレイさ」ではなく、整理整頓・安全な作業動線・品質管理がきちんと行われていること。そこが伝わらない全景公開は意味が薄い
  • そもそも工場見学の公開が新規の引き合いの決め手になる場面は限定的では? それより先に、製品実績や対応可能な材質・サイズといった情報の整備が先ではないか

一方で、逆の意見もありました。

  • 実態を包み隠さず公開することは、お客様や取引先に対する 「私たちは隠し事をしません。自信を持って最高の製品をお届けします」という意思表示になる。誠実で紳士的な姿勢として、むしろ信頼につながるのではないか

「見せない方が安全」か、「見せることが信頼になる」か。——これはどちらかが正解という話ではなく、実際に公開して、アクセス数と問い合わせ数の変化(コンバージョン率)を測って判断すべき仮説だと整理しました。

開発してわかったこと:バーチャル見学は「手段」であって「目的」ではない

今回のプロジェクトの発端は、「バーチャル工場見学って、自社で導入できるのか?」という問いでした。その答えは出ました。できます。 カメラ1台とOSSと少しの工夫で、十分に実用的なものが作れます。

でも、作り終えて一番大きかった学びは技術の話ではありませんでした。

バーチャル見学は、あくまで手段であって目的ではない——ということです。

「工場見学をバーチャルで行うことで、何を達成したいのか」。ここをはっきりさせないまま作ると、「すごいけど、誰のための何だっけ?」という成果物になってしまう。逆に目的が決まれば、作るべきものは自然と変わります。

目的見せるべきもの(例)
新規顧客の獲得品質管理・検査体制・主要工程。製品実績ページへの導線
既存顧客への安心提供生産能力・設備・納期を支える体制
採用働く環境・休憩スペース・先輩の姿。応募ページへの導線
社内教育・安全教育作業動線・危険箇所・ルールの現場表示

同じ「バーチャル工場見学」でも、目的が違えば撮る場所も、付ける説明も、置くリンクも全部違う。道具から入ると迷子になる。目的から入ると設計が決まる。——これはバーチャル見学に限らず、DXの施策すべてに言えることだと痛感しました。

次のステップ

というわけで、次にやることはこう決めました。

  1. 目的を一つに絞って言語化する(新規顧客か、採用か、教育か)
  2. 工場全体を無差別に公開するのではなく、「見せる場所」を設計する——伝えたい情報を明確にし、主要な工程をポイントごとに画像+説明で案内する「限定コンテンツ型」も有力案
  3. 公開前後のアクセス数・問い合わせ数の変化を計測し、効果で判断する——感覚ではなくデータで「見せる範囲」の正解を探す

作れるかどうか、は解決しました。次の問いは「何のために、どこを見せるか」。ツールの完成はゴールではなく、目的設計と効果検証のスタートラインでした。この続きも、結果が出たらまたこのブログで報告します。

同じ製造業のみなさんへ

もし「バーチャル工場見学、うちもやってみたい」と思われたら、技術的なハードルは前回書いたとおり高くありません。ただ、着手する前にひとつだけ。「それで何を達成したいか」を先に決めてください。 それだけで、同じ費用・同じ手間で得られるものが大きく変わります。

Onsite Solution では、ツールの内製支援だけでなく、こうした 「目的から設計するDX」 のお手伝いをしています。「うちの場合は何から始めるべき?」というご相談も、いつでも お気軽にご相談ください。

それでは、また 🏭


読んでいただき、ありがとうございます。
気になることがあれば、お気軽にどうぞ。